流氷がもたらすオホーツク海の恵み~流氷のメカニズム~(食育レポートVol.40)

【”閉ざされた海”が氷を創り出す】

冬、オホーツク海には流氷がやってきます。海一面が氷で埋め尽くされると、漁に出ることができなくなります。
野付半島に押し寄せた流氷


▲野付半島に押し寄せた流氷

 

海水が氷結したものを「海氷」といい、流れ漂う氷を「流氷」、岸についた氷を「定着氷」と言います。
オホーツク海はユーラシア大陸や千島列島に囲まれており、全体の48%が水深200m以下と比較的水深の浅い海です。そこにロシアと中国・モンゴルの国境を流れるアムール川から大量の淡水が流れ込むことで、塩分が薄い表層と塩分が濃いままの深層に分かれます。さらにシベリアからの北西の冷たい季節風が表層の海水の真水成分を凍らせ、流氷がつくられるのです。
こうしてアムール川沿岸でできた海氷は、北西の季節風とサハリンの東を南下する海流によって、遠く100キロ離れた北海道まで運ばれてきます。
オホーツク海の流氷

▲オホーツク海の海氷分布図(平年の最大範囲)

 

【徐々に解明されてきた流氷の謎】

押し寄せてきたと思ったら、一晩のうちに姿を消してしまう流氷。そのため、その仕組みの解明は困難でした。しかし1997年、日本、アメリカ、ロシア3カ国による国際合同プロジェクトが行われて以来、これまで「アムール川の”淡水”が凍って海へ流れてきたもの」と考えられていた流氷が、「アムール川の水で薄められた”海水”が凍ったもの」とわかってきたのです。
野付半島に押し寄せた流氷


 ▲海岸を埋め尽した流氷

 

 

【深層の栄養分を浮き上がらせる「ブライン」】

海水が凍るとき、純粋な水分のみが凍り、海水が濃縮されていきます。塩分が濃縮された「高塩分水(ブライン)」は、海氷とともに流されながら徐々に染みだし、塩分の重さで沈んでいきます。すると、海水が上下にかき混ぜられる「鉛直混合(えんちょくこんごう)」が起こり、深層にある栄養分豊富な塩分が浮き上がってくるのです。水温が低ければ低いほど、より深い層との交換が行われます。
流氷の通路(ブラインチャンネル)

▲流氷には時折小さな穴がいくつもあるのは、ブラインが抜け落ちた跡

 

【アイスアルジー】

また、海水が凍る際には「アイスアルジー」と呼ばれる植物プランクトンが取り込まれ、春になるとブラインを栄養素に、爆発的に繁殖します。

▲植物プランクトン量を表すクロロフィルa量の推移。3~4月に植物プランクトン量が一気に増えている(根室地区水産技術普及指導所資料より)

 

 これが植物プランクトン類を食料にするオキアミなどのエサになり、オキアミなどは小魚や貝類などのエサになります。そしてそれらは大型の魚類、アザラシ、鳥類のエサに…と、食物連鎖が起こっていくのです。
春の流氷

▲3月の流氷。海面付近が茶色くなり、植物プランクトンが繁殖し始めている

 

 

「流氷の天使」と呼ばれているクリオネも、幼年期に植物プランクトンを食べて成長します。成長すると「ミジンウキマイマイ」という動物プランクトンを食べるようになり、やがてサケ・マスの餌になります。
クリオネ

 

【邪魔者から、恵みをもたらす者へ】

これまで流氷は、冬の海を閉ざし、時には急に押し寄せることで漁業者の命を奪う危険なものでした。しかし現在では、閉ざされた冷たい海の中でプランクトンの種が撒かれ、春のオホーツク海に恵みをもたらす重要な役割を果たしているとわかってきたのです。

春の訪れとともに流氷は別れを告げ、オホーツクの港に活気をもたらします。
流氷と尾岱沼漁港

▲流氷と尾岱沼漁港(別海町役場 水産みどり課提供)

 

《参考文献》

 ・北海道農政事務所 グラフでみる北海道の漁業のポイント
   「豊かな漁場は流氷のおかげ」
  →http://www.maff.go.jp/hokkaido/policy/jyousei/pdf/29_pamphlet.pdf

 ・東京農業大学(2011年4月)
  「流氷(海氷)がもたらす恵み オホーツク海の生産構造の解明」
  生物産業学部アクアバイオ学科 准教授 西野 康人氏
  →http://www.nodai.ac.jp/teacher/200939/2011/1.html

  ・テレビ朝日 奇跡の地球物語
  「流氷 蘇る海のいのち」
  →http://www.tv-asahi.co.jp/miracle-earth/backnumber/20100314/

《農林水産省フードチェーン食育活動推進事業》